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スキャンダルの定義 PAGE5

last update Dernière mise à jour: 2025-10-29 11:55:15

「――おはようございます、社長」

 野島さんと一緒に社長室に入ると、わたしのデスクを拭いてくれていた村井さんが笑顔で挨拶してくれた。でもその笑顔は、ニコニコというよりちょっとニヤニヤしているようにも見える。わたしが野島さんと一緒だから……というのは考えすぎだろうか?

「村井さん、おはよう。デスクを掃除してくれてたの? ありがとう」

「はい。社長に快適にお仕事をして頂くために、掃除も秘書の大切な仕事ですから。私も野島くんも早くから出勤してやっているんですよ」

 彼女はおでこの汗を手の甲でぬぐってから、胸を張って誇らしげに答えてくれた。

 今日の村井さんはダークグレーのパンツスーツでビシッと決まっている。昨日のスカートもよかったけれど、パンツスタイルもまたステキだなと思った。わたしもたまにはパンツスーツにしようかな。

「そうなの? いつもホントにありがとね。ところで村井さん、今日はパンツスーツなのね」

「ええ。私、普段からどちらかというとパンツ派なんです。昨日は佑香社長の就任日だったので、スカートにしたんですけど」

「そうなのね。昨日のスカート姿もステキだったけど、パンツもいいね。バリキャリって感じ」

「ありがとうございます。でも私、一般職で入社したんですよ。この会社の秘書室の社員は、室長以外はみんな一般職なんです」

「そうなんだ……。ってことは、野島さんも?」

「はい。僕も実は一般職です」

「へぇ~、そうだったんだ」

 社長になって、また新しい事実がひとつ分かった。そうして考えると、ちょっと不本意ではあるけれどわたしはやっぱり選ばれた人間なんだという事実を認めざるを得ない。

「――あ、そうだ。唐突なんだけど。野島さん、今度一緒に夕食でもどう? よかったら村井さんも一緒に」

 わたしはデスクの側にバッグを置き、着席しながら萌絵からの提案を実行することにした。

「えっ、お食事ですか。社長がごちそうして下さるんですか?」

「うん。二人とこれからもいい関係で働いていくために、親睦を深めたくて。……あっ、別に強制じゃないからムリにとは言わないけど」

 本当は野島さんだけを誘いたかったけれど、ここは形式上村井さんにも声をかけておいた方が無難だろう。彼に不審がられたくないし、わたしの彼への好意を知っている村井さんならきっと、わたしの隠された意図いとを感じ取ってくれる
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